旭川地方裁判所名寄支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人等両名は無罪
理由
検察官事務取扱副検事北野正人はその公訴事実として、
被告人藤岡龍一は昭和二十四年十一月頃追補責任美深町森林組合長に就任し昭和二十七年八月頃まで在職し組合の業務一切を掌理し組合を代表して業務を処理していたが後任者への事務引継が終らなかつた為同年十一月二十四日まで右森林組合の職務を行い、被告人蓮沼は昭和二十四年十一月頃より同二十七年八月頃まで同組合の常務理事に就任し組合長の補佐並に組合業務の執行機関なるところ、
第一、被告人藤岡、同蓮沼は共謀の上昭和二十六年十二月二十八日同組合員に交付する為中央金庫札幌支店より受取りたる農林漁業資金融通法による組合員で造林事業者に対する同法四条に基き所定の使途以外に使用できない旨規正されている政府貸付金百七十五万円を業務上保管中、
(一)同月二十九日頃中川郡美深町役場内同組合事務所において擅に前記保管金中美深町役場に四十三万円を貸与し以つて横領し、
(二)被告人両名共同のから松球果採取事業資金として借り受けていた元利金返済のため前記保管金中擅に同日美深町に於て名寄信用組合美深支所に十万円、株式会社北海道拓殖銀行に十万円、被告人藤岡竜一の母としに十五万円、此の利子二千九百二十五円。被告人藤岡竜一に五万円、此の利子千八百円
計四十万四千七百二十五円を費消横領
したものである。
罪名業務上横領罪刑法第二百五十三条として公訴を提起したものである。
判示事項
第一、右起訴状公訴事実第一の(一)につき、
(一)証拠、農林漁業資金貸付決定通知書、右同借用証書謄本、証人青柳昇の供述を綜合すると、
政府は追補責任美深町森林組合に対し昭和二十六年十二月十二日農林漁業資金融通法による資金百七十五万円を貸付け被告人蓮沼靖は前示組合の代表者として昭和二十六年十二月二十八日政府代行機関である中央金庫札幌支店より右借受金の内金百七十五万円を受取つたものであることが明らかである。従つて右金員は組合所有となり被告人等両名が組合理事として保管中であつたものである。
(二)宮原玉一の検察官事務取扱副検事に対する供述調書の記載内容と同人の当公廷に於ける証言とは多少の相違はあるが同人は組合監事であつて被告人等両名及び組合参事佐々木三郎は宮原監事の承認を得て前示借入金の内金四十三万円を美深町に貸付けたものである。然らば被告人等両名は組合資金を擅に貸付けたものであるとすることはできない。
(三)証人平塚久の第十四回公判期日於ける供述によると同証人は組合の嘱託として会計事務を担当し右貸付金には相当の利息が付せられその利息は組合の収入となり、被告人等両名は組合の利益のためにその権限に基き利用したものである。従つて被告人等に於てこの場合自己に不法領得の意思または不法領得の意思の発現と認めらるべき点はない。
第二、訴因第一の(二)について、
証人樋渡秀雄、同首藤政市、同佐々木三郎等の当公廷に於ける供述によると被告人等両名は組合事業と関係なく実質上両名の個人事業として、から松球果採取販売の業を営んだこと明らかである。従つて前示組合資金を自己の個人事業に流用することは横領行為の標本的なものである。然るに本件証拠中本組合定款と証人組合監事宮原玉一、証人平塚久、同高田実、同佐々木三郎並に被告人蓮沼靖の検察官に対する供述調書を綜合すると、
昭和二十六年十二月二十九日頃美深町役場助役佐々木三郎(当時美深町森林組合参事兼務)の机のそばで監事宮原玉一に対し被告人理事蓮沼靖が紙にかいた金員を示して組合資金中より右金員を貸してくれと頼まれ同人はこれに同意したことが伺われ右紙は証人高田実が作成しその内容は証人佐々木三郎の供述と被告人蓮沼靖の検察官に対する供述調書により拓銀美深支店よりの借入金十万円、名寄信用金庫美深支店よりの借入金十万円、藤岡とし(被告人藤岡竜一の母)よりの借入金十五万円とその利息、藤岡竜一よりの借入金に五万円とその利子等が記載されていたことが認められる。されば組合と理事個人との貸借等利害反する法律行為に於ては監事が組合の利益のため之を代表してその法律行為をなすべきことは私法上正当であつて之を目して被告人等が擅に組合資金を自己の個人事業に流用したものとは認めることができない。只被告人等は自己の個人事業を組合の計算に帰せしめた如く組合の帳簿に記載しその損益を明にしていない点は認められるけれども右は被告人等の個人の帳簿で本件公訴事実と関係のない処である。
第三、訴因第二につきその起訴状公訴事実は説明不十分であつて明瞭を欠く処であるがその要旨を摘示すると、
昭和二十七年度春季造林補助金は本件組合の組合員中已に造林した者に直接交付されるべき金員であつて、組合に一括配布されるが組合の所有とはならない。組合理事等は之を造林した組合員に配布する責任があり配布完了までは之を保管する義務がある。被告人藤岡竜一は右業務上保管に係る金員中昭和二十七年八月三十日頃美深町に於て内金二十三万円を擅に自己の用途に費消横領したとの意に解する。右に関し証拠物日記帳(現金出納簿)(昭和二十八年押第三十四号の五)九十一丁、二十三万円仮払の記載及び補助金指令書関係綴、昭和二十七年度春季造林補助金交付についてと題する公文書(同年押第同号の八)並に証人塚田智周、同樋渡秀雄、同首藤政市、同伊藤一男の当公廷に於ける各供述を綜合すると多少喰違いと明瞭を欠くが、昭和二十七年度春季造林補助金は同年八月三十日に金六十六万三千六百二十円が拓銀美深支店の組合口座に振込まれて支払われたものであつて、右補助金は組合員中の同年の春季四、五月頃に造林を已に終え係官の造林検定をへて交付されたものである。而して右組合員中には右造林のための苗木を組合より買入れその代金は未済であつて組合は右補助金中より三十四万七千円は之を相殺受領し得べきものであつたことが明である。
被告人藤岡は右組合の受領し得る金員にて組合職員の住宅購入のためその代金二十三万円を支出し右住宅売渡人伊藤一男に支払いその支払金中より藤岡個人として内金十八万円を借入れたものであること明らかである。その余の全証拠に徴しても検察官の公訴事実を維持し得る点は見当らない。
仍つて当裁判所は刑事訴訟法第三百三十六条により慎重審理の結果確信をもつて主文の通り判決する。(昭和三〇年五月二日旭川地方裁判所名寄支部)